石野純也のモバイル通信SE

第50回

ネットワーク利用制限の撤廃とケータイ販売にもたらす影響

総務省の有識者会議で、ネットワーク利用制限を原則として禁止する方向性が打ち出された

総務省の有識者会議は、4月24日に開催した「競争ルールの検証に関するワーキンググループ(WG)」で、ネットワーク利用制限を原則禁止にする方向性を打ち出した。同WGでこれまで取り上げられてきた論点を整理した格好で、今後の議論を経て報告書に盛り込まれていく。中古端末に突如制限がかかってしまうのを防ぐのが、その目的だ。

ネットワーク利用制限とは? 薄くなってきた実効性

ネットワーク利用制限とは、キャリアが販売する端末の通信機能をふさいでしまう仕組みのこと。

この処置がかかるとアンテナピクトが赤く表示されるため、「赤ロム」と呼ばれることもある。不正に入手された端末への対応として導入されたが、割賦販売が一般的になり、未払いなどでも制限がかけられるケースも増えている。

大手4社とも、ネットワーク利用制限はIMEIと呼ばれる端末の製造番号で管理しており、一般の人でも専用サイトで端末ごとの状態を確認できる。支払いを済ませている場合は、IMEIを打ち込むと「〇」と表示されるが、分割払いを済ませていない場合には、今後の状態変化が起こりうるため「△」になる。赤ロムは「×」と表示され、当該キャリアのSIMカードを挿しても、通信ができない。

キャリア各社は、ネットワーク利用制限の状態を確認できるサイトを用意している。画像はauのもの。「〇」になっているのは、筆者が「iPhone 15 Pro」を一括で購入したからだ

問題になりやすいのが、元々「△」だったのが後で「×」になる場合。中古店に売却された際には「△」でも、販売中や次の所有者の手に渡った後、「×」になる(元の所有者が分割払いを完了しない)ことがありうるからだ。中古店によっては保証制度を設けて交換対応などをしていることもあるが、端末を購入したユーザーが安心して利用できないため、中古端末流通の妨げになっているとの指摘がある。

こちらはドコモのサイト。ドコモからは「Galaxy Z Fold5」を購入しているが、分割払いが終わっていないため「△」と表記されている。ここでも、債務不履行の場合には「×」になる可能性が明記されている

総務省の有識者会議では、中古端末業者の業界団体RMJ(リユースモバイル・ジャパン)が、債務不履行でのネットワーク利用制限は本来の趣旨から外れていると指摘。分割払いとは言え、ユーザーの手に渡った時点で所有権も移転していることから、中古店に売却後の端末や、次の所有者に渡った時点での端末に制限をかけるのは過剰になっているとの指摘も出ている。

端末の所有権は、割賦販売でも商品をユーザーに引き渡した時点で移転している

実効性の面でも課題がある。ネットワーク利用制限はSIMロックを前提にしていた仕組みだからだ。

一例を挙げるとドコモの赤ロムは、ドコモ回線しか使えない端末では通信を大きく制限できるため有効だが、SIMフリーの場合、他社のSIMカードを挿すだけで普通に使えてしまう。ドコモ回線の利用ができないという制約はある一方で、SIMロックが前提だったときよりも、制限が緩くなっているのも事実だ。

ネットワーク利用制限の撤廃の方向とこれから起きること

こうした中、総務省の有識者会議で論点として挙がっているのが、ネットワーク利用制限の原則撤廃だ。

不正に端末を入手する犯罪などに限定し、割賦の踏み倒しなどの債務不履行への対応としての利用制限は、基本的に認めない方向性が打ち出されている。

ただし、不正入手と未払いはその線引きが曖昧なところもあるため、支払い意思の確認期限として、4カ月を超えない期間のみ、これを許容するという意見が出ている。

ネットワーク利用制限を原則禁止にしつつ、4カ月間は許容する方針のようだ

逆に、実効性の課題として挙がっていた、他キャリアのSIMカードを挿した場合のネットワーク利用制限については、強化する方針も検討されている。キャリア間で制限をかける端末のIMEIを共有するなどすれば実現はできそうだが、この議論がまとまれば、こうした措置を求められる可能性も出てくる。

犯罪にはより厳しく、そうでない場合にはより緩和するのが総務省の有識者会議が打ち出した方向性と言えるだろう。

各種報道ではあまり触れられていないが、キャリアをまたがったネットワーク利用制限のあり方にも言及されている。実現すれば、盗品などへの対応は強化されることになると言えそうだ

求められる「踏み倒し」対策 審査は厳格化か

ただ、ネットワーク利用制限が「踏み倒し」の歯止めになっていたことも事実だ。もし、この方向性が原則になれば、キャリアは何らかの対策を講じる必要が出てくるだろう。

有識者会議では、楽天モバイルの事例が挙げられていた。

同社は、現在、端末の割賦販売をクレジットカードに限定しており、分割払い手数料を免除しているのは楽天カードのみとなる。一般的なキャリアとは異なり、クレジットカードの分割払い機能を利用しているというわけだ。

そのため、楽天モバイル自身で継続的に支払えるかどうかの与信をする必要がなくなっている。結果として、同社は未納の発生を抑制できており、先に挙げた所有権の問題も関連してくるため、ネットワーク利用制限の見直し検討は可能としている。

4社の中で楽天モバイルのみ、このような仕組みを採用しているため、ネットワーク利用制限の原則撤廃には前向きだ。

楽天モバイルは、手数料無料の割賦販売を楽天カードに限定しており、債務不履行も抑制できていることから、制限緩和の見直しに前向きだ

残るドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は、何らかの対応を取る必要が出てくる。3社とも、自社や自社傘下の企業がクレジットカードを発行しているため、楽天モバイルのように手数料無料の割賦払いをそれに限定してしまう手はありそうだ。

ただし、これだと割賦を利用できるユーザーが限定されてしまうことから、現状の枠組みを維持しつつ、審査をより厳格化するといった対応を取る可能性も考えられる。

とは言え、規制を厳しくしすぎると店頭での処理に時間がかかったり、分割払いを利用できないユーザーも増えかねない。結果として、落ち込んでいる端末販売にさらなる打撃を与えることにならなければいいのだが……。今後、議論がどのような方向に進むのかも注視しておきたい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya